フェーザ (phasor)

1. 三角関数と指数関数
2. フェーザ(phasor)
3. フェーザのデモ
4. フェーザの加減算

---

1. 三角関数と指数関数
   オイラーの式 により、指数関数と三角関数には密接な関係がある。
   時間的に正弦振動する現象を記述する関数として sin(ωt + φ), cos(ωt + φ) が考えられるが、三角関数は、微分、積分、和の公式など取り扱いが複雑である。
   これと比較して、指数関数の方が取り扱いが容易である。
   そこで、複素数を扱う必要があることによる複雑さを犠牲にして、 三角関数のかわりに指数関数を用いて振動現象を記述することを試みる。

   オイラーの式より、

   e^jx = cos x + j sin x
   であるから、両辺の実数部を比較して、 cos x = Re[e^jx] が恒等式として成立する。 ただし、Re[...] は括弧内の複素数の実数部を表す。

   ---

2. フェーザ (phasor)
   t を時刻として、時間的に正弦振動する現象を f(t) = A cos(ωt+φ) = Re[Ae^j(ωt+φ)] と表すとき、ωを角周波数[ω/(2π)が1秒あたりの振動数を表す]、 A を振幅、φを初期位相と呼ぶ。
   交流信号を電気回路に加えた場合の応用のように、 角周波数ωが一定の場合は、 生じる現象の角周波数はωに固定されており、 振幅と初期位相のみが周囲の状況によって変わってくる。
   このような場合、 振幅 A と初期位相φを決定すれば、現象 A cos(ωt+φ) が表現できることになる。
   Ae^j(ωt+φ) = Ae^jφe^jωt であるから、 正弦振動する現象の角周波数ωがあらかじめわかっている場合は、複素数 z = Ae^jφ と正弦振動する現象 f(t) = A cos(ωt+φ) を１対１対に対応付けることができる。
   正弦振動する現象を複素数で表現することをフェーザ表示と呼ぶ。 フェーザ表示は交流回路の動作解析などで用いられる。
   フェーザ(phasor)表示では、複素数 z の絶対値 |z| は振幅(amplitude)を表し、 位相∠z は初期位相 (phase) を表す。
   ここでは実数部 Re[ze^jωt] を用いるが、 虚数部 Im[ze^jωt] に対応させて 説明している書籍もある。

   ---

3. フェーザのデモ
   • 説明
     • 左の図は複素平面を表す。 右図は複素数に対応する正弦振動する信号の時間的変化を表す。
       複素平面は、縦方向に実軸（上が正方向）、横方向に虚軸（左が正方向）として 描かれるので注意すること。
     • ωは固定されているので振動の周期は変わらない。
     • 複素平面上の点は一定の速度で反時計まわりに回転する。
       このとき、実軸への射影が正弦振動する信号を表す。
     • 青色は基準の信号であり、z=1, sin(ωt) を表す。
     • 赤色は z=re^jφ, A sin(ωt+φ) を表す。
     • このように、複素数と正弦振動する信号を対応付けることができる。

   • 操作方法
     赤色で描かれる複素数値の設定は「初期値設定」で行なう。
     • 初期値設定ボタンを押し、
     • 複素平面上でマウスをクリックまたはドラッグすることで複素数zの値を決定する。
     • 実行ボタンを押す。
4. フェーザの加減算
   複素数

   	z1 = x1 + j y1
   	z2 = x2 + j y2
   

   によりフェーザ表示された信号

   	f1(t) = Re[z1ejωt]
   	f2(t) = Re[z2ejωt]
   

   の足し算は

   	f1(t)+f2(t)
   	= Re[z1ejωt] + Re[z2ejωt]
   	= Re[z1ejωt + z2ejωt]
   	= Re[(z1 + z2)ejωt]
   	= Re[{(x1 + x2) + j(y1 + y2)}(cosωt + jsinωt)]
   	= (x1 + x2)cosωt - (y1 + y2)sinωt
   

   と表される。
   ここで、

   	x1 + x2 = R cosθ
   	y1 + y2 = R sinθ
   

   と表すと、

   	f1(t)+f2(t)
   	= R cosθ cosωt - R sinθ sinωt
   	= R cos(ωt+θ)
   

   となる。

   この結果は、

   	z1 + z2
   	=(x1 + x2) + j(y1 + y2)
   	= R cosθ + j R sinθ
   	= R ejθ
   

   であることを利用して、

   	f1(t)+f2(t)
   	= Re[R ejθejωt]
   	= R cos(ωt+θ)
   

   より計算して求めることもできる。

   以上より、三角関数の合成は複素数を用いた足し算で求めることができる。